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天然酵母の蒸しパン屋 まるぱん 店主 宮武千晶さん

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2021年3月11日取材

天然酵母の蒸しパン屋 まるぱん 店主 宮武千晶さん

ーー子ども遊び場もある「天然酵母の蒸しパン屋 まるぱん」の店主・宮武さんに「室蘭へUターンした経緯」「室蘭の魅力」「蒸しパンのように膨らみ続ける想い」について聞いた。

宮武千晶さん

室蘭・北海道のおいしい食材を活かし、際立たせてくれる蒸しパン

店内での宮武さん

ーーこちらのお店を開いてからどのくらい経ちますか?

2016年5月開店なので、5年が経ちますね。

ーー開店当初から「蒸しパン屋」っていうのが珍しく、話題になりましたね。どうして室蘭で、どうしてこの場所で開業しようと思ったんですか?

お店を開いたこの建物が祖父の家なんです。子どもの時は苫小牧市に住んでいたんですが、子どもの時からよく遊びに来てました。苫小牧市の平地と違って、山があって、自然が豊かで、大好きなまちでした。高校生の時は室蘭で過ごして、卒業後に室蘭を離れたんですが、結婚を機に室蘭に戻ってきて、祖父の家に住むことになったのもあって、ここでお店を開くことにしました。

ーー「蒸しパン屋」とのことですが、どうして蒸しパンのお店にしようと思ったんですか?

蒸しパンが好きだったんです。そして、小さな子どももいて、離乳食として蒸しパンを作っていたんです。小さなお子さんが遊びにきてくれた時に、食べやすくて、子ども達も手に取りやすくて、自分達でお買い物がしやすいものにしたなと考えていて、色々試してみて、蒸しパンにしようと決めました。

ーー高校卒業後に中国などの海外でも暮らしていたようですが、中国での暮らしが蒸しパンにつながってはいるんですか?

中国で暮らしていた時に“蒸し物の文化”に触れました。点心だったり、蒸し物が主流で、蒸し物は素材の味が活きるし、油も使わないので体にもすごくいいんです。中国で暮らしている時は、毎日、蒸し物を食べていて、中国では友人や蒸し物料理屋で教えてもらって家でも作っていました。北海道に戻ってきたら蒸し物料理屋さんがなかなか無くて自分で作っていたんですが、作った蒸しパンを知人にあげたら「おいしい」と言ってもらえました。海外での暮らしから帰国して、室蘭に戻って1番思ったことのが、食材のおいしさでしたね。そのおいしい食材を活かしたい、より素材の味を際立たせたいという想いもあって、中国での経験と戻ってきてからの想いもあって、蒸しパンを選んだことにつながっています。

子どもと食事ができて、遊べる場所を作りたい。地域の人も応援してくれた

お店の内観

ーー「知人にあげる」ということから、売り物にするというのは壁があると思いますが、商品にするためには試行錯誤も沢山されたんじゃないですか?

日本での蒸しパンって、お菓子のような甘いイメージだと思うんですが、食事として子どもに食べさせるには糖分が多すぎたり、毎日食べるには飽きてしまうだろうなと思ったので、甘さを抑えるような味の調整をしました。甘さを抑えて、甘いものに限らずお総菜系の蒸しパンにも合うような基本の生地の味は試行錯誤しました。色んな方に食べていただいたり、特に子育て世代のお母さんたちに沢山試食してもらって、意見を聞きましたね。値段設定もお母さんたちの意見も伺って、決めていきました。

ーーバリエーションもかなりの数がありますよね?

蒸しパンは定番で20種類で、他に季節の旬な食材、期間限定、お客さんからのリクエストなど、次々と新しい種類ができていて、今では300種類くらいあります。300種類の半分が甘い系、もう半分がお総菜系です。生地がどちらにも合う味になっています。皆さん、甘い系とお総菜系のどちらも買って食べてくれます。開店当初は15種類くらいで始めたんですが、お客さんから「こんな味がほしい」という意見も聞いて作っているうちに、どんどん増えていって、今では300種類までいきましたね。それに蒸しパンだけではなく、他のパンも作るようになったので、全部含めるともっと多くの種類があるんです。

ーーお店を始めて、自分に向いているなと思ったタイミングはありましたか?

もともとモノ作りが好きでした。蒸しパンなどの料理もですが、店内や外の遊び場のものも自分たちで作っているんです。蒸しパン作りもですが、お店作りをしているのが本当に楽しいです。来てくれるお客さんと話しをして、その時々に合わせて柔軟に変更しながらお店を作ってきました。

ーー子どもの時からお店を開くのが夢だったんですか?

自分がお店を開くなんて考えたことも思ったこともありませんでした。室蘭で子育てをしている時に、子どもを連れて食事ができたり、遊べたりできる場所があまりないなと思ったので、「自分で作ってしまおう」と思って、お店を開きました。お客さんと話し合いながらだったら、できるんじゃないかと思って、お店を作りましたね。

ーーすごいパワーですね。宮武さんがあったらいいなと思った子どもを連れて食事ができて、遊べる場所にこのお店がなっているんですね。お店を開こうと思ってからはスムーズに進みましたか?

「お店をやろう」と決めてからはお店開くまでは、まず「やってみよう」という想いで結構早く進みました。商工会議所だったり、色々な方に相談に行ったら、応援してくれる方が室蘭にはいっぱいいました。1番心配だったのが、お店がある場所が住宅街で、近隣は高齢者の方が多くて、お店が開店したら環境も変わってしまうことでした。でも、ご近所の方達もみんなあたたかくて、「地域に子どもも減ってきたので子どもが来てくれるようなお店を開いてくれて嬉しい」と沢山言ってもらえました。夏だと外の遊び場で子ども達が遊ぶ声が街中に響くんですが、子ども達の声が聞けて嬉しいと声をかけてくださるんです。そういう声が後押しにもなりましたし、応援してくれる人が多かったです。

ーー子ども少なくなった地域に子どもの声が響き渡るのも喜んでもらえたんですね。

室蘭は1年を通じて過ごしやすく、みんなで子育てしている感覚になれるまち

子どもの遊びスペース

ーー室蘭に戻ってきた時に改めて実感した室蘭の良さってありましたか?

高校生の時に室蘭に住んでいましたが、当時は室蘭は活気のあるまちで、工場が沢山あって、若い人たちが沢山働いているというイメージでした。高校卒業して10年くらい経ってから戻ってきたら、落ち着いているまちだなと感じました。子どもが少なくなっているんだなと思いましたけど、子育てはしやすいまちだと思っています。夏もそこまで暑くもなく、冬も雪が多くなく、1年を通じて過ごしやすい気候です。子どもが減ってしまった分、まちの方達が声をかけてくれて、みんなで子育てをしている感覚になれました。子どもを出産しないと分からなかったですけど、室蘭で子育てをしてみて、子育てには適しているまちだと思っています。

ーー室蘭に無いものを数えたら沢山ありますが、あるものを数えたら、室蘭は色々あるなと思うんです。室蘭でお子さんと一緒に遊びにいくのに、「ここ楽しいよ」「好きだな」と思う場所はありますか?

すぐ近くに海もあって、上の子(小学生)は釣りにいったりもできます。スキー場もあるので、スキーにもいけます。夏は釣りで、冬はスキーですかね。同じ市内でも少し行くだけで景色も変わるので、色んな遊び場があるなと思います。そして、下の子(幼児)はきらん(生涯学習センター)に屋内の遊び場(キッズパーク)があるので、よく一緒にいきます。雨の日でも1年中、天候関係なく遊べるので、助かっています。

ーー室蘭を離れて都会に行った方からは、「地元での子育てがいいな」という声や「自分たちが経験した室蘭での生活を体験させたい」との声も聞くことがあります。

お店をやっていると、同じ学校だったとの話しも聞くので、地元に帰って来ている人が多いのは感じます。1度外に出て、改めて室蘭の良さを実感して、帰ってくる人も多いですよね。

子どもたちと毎日来れて、お母さんたちが安らげる場所に

店内に立つ宮武さん

ーー室蘭に帰ってくるとしても就職するのも選択肢ですが、宮武さんのようにお店を開くのも選択肢で、これから帰ってくる人たちに勇気を与えられるんじゃないかと思います。お店を開くことも大変だとは思いますが、続けることも大変だと思います。続けてこれた支えはありましたか?

お店は住宅街の中にあって、目印になるものも少ないですし、室蘭は「坂のまち」なので車がないとなかなか来にくいんじゃないかと思って、お店を始める前は誰もこないんじゃないかとの思いもありました。SNSを続けていると見てくれている人もいて、実際にお店まで来てくれるんです。天気が悪くても来てくれるお客さんがいて、ありがたいなと思います。お店がある大沢町は室蘭の中でも観光する場所という訳ではないので観光客ではなく、地元の方達が毎日のように来てくれるのがありがたいですね。

ーーSNSだと蒸しパンは見た目もいいですよね。SNSでも開店当初は蒸しパンに集中して作っていたので、「蒸しパンのお店」ということで、お母さんたちにも広がりやすかったんでしょうね?

色々な食べ物も試したんですが、食べやすさを考えると、蒸しパンは中に具材を包んでしまえて、小さな子どもでも食べられて、一つ一つ梱包しているので、お母さんたちも洗い物がでないんです。梱包されている蒸しパンを温めて、食べて、包みを捨てられるのが手軽でありがたいと言ってもらえます。包み方やパッケージも色々考えて作りました。部活をしている子どもたちの補助食や、朝食、小腹が空いた時のおやつとしても食べてもらえますし、添加物が少なく安心したものを食べたい授乳中にもお母さんたちに食べていただけています。まとめ買い、冷凍ストックしてくださるお客さんも多いです。蒸し直すとふわふわなりますし、忙しいときには簡単にレンジでも温められます。それに、幼稚園の給食、老人ホームでのお菓子、学校祭、卒園式の紅白饅頭代わりにもご利用いただけています。最近、1歳の誕生日に背負う一升餅の代わりに、一升蒸しパンのご注文がとても多いんです。小さな頃から、まるぱんの蒸しパンを食べてくれて、日常からお祝いやイベントごとで選んでくださるのがとても嬉しいです。蒸しパンを手土産にもしてくれていて、皆さんの手で広めていってくださっています。

ーーこの先こんなことをやってみたいという夢はありますか?

お店を開いた時にイートインスペースを作ったのは、皆さんが食べてて「おいしい」って顔が見られる方が頑張れるな思ったからです。実際に遊んでくれる子どもたちも多くて、ここで過ごした思い出だとか、「おいしかった」って思いを将来思い出して、また行きたいなと思ってくれた時に、お店を続けていられるようにしたなと思っています。あとは皆さんのリクエストを聞いているうちに蒸しパンの種類も増えてきましたけど、最近は小さい子どもと一緒に作れるように蒸しパンの生地も販売してるんです。その生地を使って蒸しパン作りの教室を開いて、子ども達が蒸しパン作りを体験できるようなこともしていきたいなと思っています。

ーー自分の喜びをつなげていきたいという想いなんでしょうか?

子育てしている時に相談できる人がいなかったり、ずっと子どもとしか接していなくて寂しかったりで、色んな想いがあると思うんです。でも、ここに来てくれると、ちょうどいい狭いスペースで初めて会ったお客さん同士が知り合いになったり、私と話すことでリラックスしてもらったり、そういう気持ちになってくれたらいいなと思って、毎日来られるようにとの想いでやっています。遊んでいるお子さんを見ながら、蒸しパンを食べてくれたお母さんたちが、帰り際に「久しぶりにゆっくり話ができました」「ゆっくり蒸しパン食べれました。ありがとう」と言ってくださります。私の方こそ来てくださり感謝しているのに「楽しかった」「おいしかった」と言ってくださる皆さんに、「こちらこそ、ありがとう。またすぐ会いたいな」という気持ちになります。「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは、久しぶり」と言えることが本当に多くて、室蘭の人達のあたたかさ、優しさ、愛情深さをいつも感じられています。

ーー宮武さんは子育てもされていますが、蒸しパンも育てているような感じですね。

お客さんがお店に入ってきて、蒸しパン見て「かわいい」って言ってくれるんです。私も同じ気持ちで作ってるんですが、お客さんも「かわいい」と思って食べてくださるので嬉しいです。

ーー宮武さんの想いも広がっていますし、「おいしさ」も広がって、ここに来た人たちのコミュニティも広がって、そして、これからやりたいと思っている体験でモノ作りの楽しさも広がって、どんどん広がっていくといいですね。

お店でお子さんが蒸しパン作りを体験して、生地もお家に持って帰って、お子さんがお母さんに作ってあげるのも面白なと思うんですけど、お子さんはお母さんの料理が1番おいしいと思うので、お家でお母さんたちが作った蒸し立ての蒸しパンを、お子さんと食べてくれたらいいなと思っています。お店にも来て食べていただきたいですが、お家で一緒に作って、一緒に食べるきっかけになったらいいなと思っています。

ーー最後に、室蘭に戻ってきて良かったな、お店をやっていて良かったなと思いますか?

室蘭で学生時代を過ごしましたが、戻ってきてから、学生の時以上にお客さんも含めて、沢山の人達と知り合える機会ができました。室蘭はどこに行くにも行きやすいと思いますし、室蘭の「食材の手に入りやすさ」、「食材のおいしさ」をもっと伝えたいですし、伝わったらいいなと思います。ここでお店をやっていることで、転勤などで引っ越された方も来てくださった時に、また会えるので本当に良かったなと思っています。先日も引っ越してしまった方が、来てくれたんです。引っ越してみて分かったようなんですが、室蘭の人は優しくて、手助けや声がけをしてくれます。子育ても1人じゃなく、まわりを頼っていいんだなと思えるんです。私もそう思ってもらえるようになりたいですし、このお店がそう思ってもらえる場所になったらなと思っています。

お店の外観
お店に並ぶ蒸しパン
できあがった蒸しパン
店内で遊ぶ子どもたち

お店情報

店名 天然酵母の蒸しパン屋 まるぱん
住所 〒050-0086室蘭市大沢町3-3-2
電話番号 0143-43-8670
営業時間 10:30~17:00
定休日 月、土、日
Facebook https://www.facebook.com/marupanchan
Instagram https://www.instagram.com/marupanchan/
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